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サスティナブルな復興支援サスティナブルな復興支援

川上:僕は以前から諸橋さんや、お父様が創業されたゼビオさんとお付き合いさせていただいていますが、震災後、諸橋さんはユニークな活動を始めていらっしゃいますね。

諸橋:震災から半年後の2011年9月に、一般財団法人UNITED SPORTS FOUNDATION(ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション。以下USF)を立ち上げました。
震災ではゼビオの店舗も約70店舗くらい被災して、それらを復興させるために、たくさんのご支援や寄付が国内外から寄せられたんです。
せっかくなら、それをゼビオの店舗改装のために使うのではなく、被災した子ども達の未来のために役立てようということで、USFを始めました。

川上:もともとゼビオの店舗のための寄付金だったんですね。

諸橋:そうなんです。
しかし、ありがたいことにゼビオの店舗は自力復旧できたので、せっかく皆様からいただいたご支援を、子ども達のために使おう、と。
スポーツの力を再認識し、スポーツが持つ豊かさで子ども達の未来を育むことで日本の未来に貢献したいと思って、USFを立ち上げました。

川上:僕も以前、7年間福島で暮らしたことがあり、2001年僕が学者デビューをしたのも福島でしたから、震災のニュースはとても辛かったですね。
福島にはとてもお世話になったのに、自分は何もできないという無力感に、しばらくのあいだ襲われたんです。
でもこのままじゃダメだ、何かしたいと思って諸橋さんに相談し、初めはサッカーボールを100個購入して寄付しました。
その後も大阪でコツコツとチャリティセミナーを続けていたところ、諸橋さんがUSFを立ち上げたと知って、僕もジョインさせてもらうようになったんです。

諸橋:震災から6年以上経った今でもチャリティ活動を継続しているのは、実は結構、珍しいんですよね。
震災後には多くのチャリティ活動が生まれましたが、現在、そのほとんどが現在活動を停止しています。
復興を助けたいという熱意はあっても、現実的に資金をやりくりできないんですね。

川上:活動団体がきちんとマネタイズできていない、という問題ですね。

諸橋:日本でこれほど大きな災害が起こったことはなかったから、とにかく被災地を助けようとしてチャリティを始めても、サスティナブルな活動を考えられる団体はほとんどなかった。
たとえばソフトバンクの孫さんみたいに、はじめから「10年間支援する」と決めていれば効率よく活動を継続できたのでしょうが、ほとんどの団体が見切り発車で、切羽詰まって始めてしまった。
当然、支援団体も疲弊しますし、継続することは難しいですよね。

川上:震災から6年半経ちましたが、支援をする団体側だけでなく、支援を受ける側にも変化はありますか。

諸橋:語弊があるかもしれませんが、福島に住んでいる一人として、支援を受け慣れてしまったという感じは否めないような感じがします。
人間にはそもそも勤勉欲というものがあって、「自分で生み出す」という力を失うと、問題が生じると思うんですよ。
そのためUSFは、これまでは支援対象を限定していませんでしたが、現在は将来リーダーとして活躍してくれそうな子ども達を選抜し、長期的に育てる活動を始めています。
たとえば、国立青少年教育振興機構が主催し、USFも協力している「福島こども未来塾」という活動では、自然体験やスポーツ活動、国際交流、郷土の歴史などさまざまなテーマでワークショップを行い、子どもの可能性を伸ばす取り組みを行なっています。
子ども達は1年間を通して、福島のことや日本のこと、未来のことなどを学ぶんです。

川上:それは非常に面白いプログラムですね。

諸橋:未来のリーダーを育成するには時間がかかる。
でも、すごく時間がかかるけれど、未来のためには今、始めなければならない。
私は福島に住んでいるけれど、自宅の近くにはまだ、除染の廃棄物がゴロゴロ転がっていますよ。
震災後6年半も経つというのに。
じゃあ、この福島をこれからどう支えていくのかって考えたら、まずは未来をしっかり考えられる人材が必要なんです。
そして、そういう人材を育てるのは、今を生きている私たちの責任であり、未来に負債を残してはならないって思うんですよ。

川上:高い志を持ってチャリティを始めた団体もたくさんあったけれど、震災後しばらくして活動を続けられなくなってしまったのは、やはり、ビジネスモデルが確立できていなかったからですか。

諸橋:そう思います。
USFも国や青少年教育振興機構から助成金をいただいているけれど、助成金はいつ、受けられなくなるかわからない。
だから私たちは継続的に活動するため、初めから「助成金はないもの」と思って運営しています。
とはいえ、私たちも資金を貯めようと思って貯めたわけじゃないし、活動を続けるうちにいろいろわかってきたという感じなんです。
「あ、こうすると控除を受けられるんだ」とか、やりながらノウハウを蓄積してきた。
最初は「一般財団ってなんだ?」っていう程度の、素人集団でしたから。

川上:ほとんどの団体が、節税スキームを使いながら寄付活動を続けてきたけれど、それだと、稼ぎがないのに貯金をどんどん切り崩していくのと同じことで、いずれは枯渇してしまう。
だけど、諸橋さんのUSFが今も活発に活動を続けているのは、ストック文化ではなく、フロー文化を築いてきたからなんでしょうね。

諸橋:営利でも非営利でも、キャッシュが無くなっていく様子を見るのは耐えられない性格だからかもしれません(笑)

川上:それは、無借金経営を貫いていたお父様のDNAを引き継いでいるのでしょうね。

諸橋:新しいことに挑戦するとき、私はいつも「これはトライアルだ」って思うんです。
失ってもいいと思って、腹をくくって資金を突っ込む。
そもそもお金って、使わないと増えないんですよ。
使って、回して、増やす、それは営利でも非営利でも変わらないんじゃないかなと思うんです。

諸橋 寛子
一般財団法人UNITED SPORTS FOUNDATION代表理事
スペシャルオリンピックス日本・福島 副会長
一般財団法人脳神経疾患研究所 理事
NPO法人ザ・ファースト・ティー・オブ・ジャパン理事

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