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アドテクと AI、将来予測


川上:今回、嶋瀬さんと対談させていただくにあたり、お聞きしたいことがあったんですよ。
今は、動画を買う時代じゃないですか。
Huluの会員数は日本で150万人を突破して、Netflixに至っては全世界で1億人を超えたと聞きますし、この勢いは今後もますます強くなるでしょう。
でも、こういうサービスはこれまでのメディアを破壊する威力を持っていますよね。
今後、日本のメディアはどう変わっていくと思いますか。

嶋瀬:従来はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌がマス4媒体とされ、マスコミュニケーションの大部分を占めてきました。
これらが主流だった時代は、「ユーザーは自分からコンテンツを見にいく」という行動が当たり前でしたし、たとえば、見たいドラマが始まる時間には家に帰り、テレビの前に座って意識的に鑑賞していましたよね。
でも今は、インターネットで動画が配信されるのが当たり前の時代。
いつでも好きな時に、好きなものを見られますし、CMなどの広告が不要ならスキップすることもできます。
つまり現代の人たちは、自分が気に入らないものは完全に拒否し、遮断されることをものすごく嫌うんです。

川上:そこへ、コンテンツマーケティングが加わった。
ユーザーが求めるコンテンツを的確なタイミングで与えることができるようになり、ユーザーはますます「見たいものを自分で取りに行く」ということをせずに良くなりました。

嶋瀬:これからは、コンテンツの数が無限に増えていくでしょうね。
つまり、「このユーザーはこういうものが好きだ」というデータがどんどん蓄積され、それに対応できるだけの、コンテンツが用意されることになるでしょう。
アメリカのAmazonがなぜ、最初に書籍の販売を始めたかといえば、商材としての特性も勿論ありますが、インターネット通販の需要がまだ低かった時代、ITリテラシーの高い少数派の人たちがどういう本を好み、どういう思考を持っているのか探って、その後のビジネスにつなげたかったからとも言われてますよね。
これから企業側が持つユーザーデータがさらに増え、そしてAIがますます発達すれば、「これは、この人に好まれる」と、物事と人の嗜好がかなりの確率でマッチングすることになるでしょう。

川上:これからはAIの時代ですからね。
僕が大学で指導している卒論も、学生に代わってAIが書くことになるのかもしれないし、そうなると産業だけじゃなくて教育も変わってくるかもしれないですよね。

嶋瀬:たとえば、計算機が発明される前と後とでは、本来なら教育が大きく変化しなければならなかったのに、日本ではあまり変わらなかった。
そもそも教育は時代の変化に対応しながら、絶えず変わっていくべきものだと思うんですよ。
その意味では今後、AIの進化に伴い、日本の教育ももっと変わっていくかもしれないですね。

川上:小保方さんの件じゃないけれど、今はコピペでも論文を書くことができる時代。
でも、AIがもっと進化してコピーをするのではなく、オリジナルで論文を書くことができるようになったら、もしかしたら文章をアウトプットさせる教育は、姿を消すかもしれませんね。

嶋瀬:でも、どれだけAIが進化しても、ゼロからイチを生み出すという分野は果たしてAIにできるのだろうかって思います。
たとえば、「この新車を、河口湖の湖畔で走らせてCMを作ろう」みたいな発想は、やはり人間じゃないとできない。
ネット上で無数に散らばっている優れたものを選択し、集約することはAIにできたとしても、いま、存在しないものを想像するのはやはり人間の役割なんじゃないかなって思います。

川上:つまり、「0→1」の発想は人間が、そして、「1」の発想をさらに「100」へ拡大させるような、「1→100」の作業はAIが担当するというように分業化が進む、ということですか。

嶋瀬:僕らがアウトブレインジャパンを立ち上げたときにも感じたことなんですけど、日本人って、すでにメカニズムが確立しているものをまわすのは得意だけど、「0→1」の発想とそれを「1→100」へ拡大していく最初のスタートダッシュの部分が苦手な国民性だと思うんですよ。
そもそも日本は、世界で最も進出が難しい市場のひとつとされていて、その理由の一つめが、日本人は英語を話せないということ。
それから、新しいものでもすぐに実績を求める側面、つまり今あるものと無理やり比べてマイナス部分にフォーカスを当ててしまう。
たとえばアメリカだと新しいものは、ちゃんと新しいものとして捉え、例えミスやバグがある未完の状態であったとしても、メリットがそれを超えるようであれば試す。何よりも、他の人よりも先に失敗できることをちゃんと価値としてとらえられており、失敗もある意味で成功の過程でしかない。
でも日本だと、多くの人はたとえ成功する確率が高くても、失敗する可能性が少しでもあるなら手を引いてしまう。
だから日本はテクノロジーのアダプションがどんどん遅れてしまうんです。

川上:ホリエモンさんも、そんなことを言っていましたよね。

嶋瀬:国内で初めて、民間企業が製作した観測ロケットが打ち上げられたときですよね。
結果的に目標には届かなかったけれど、海外の英語メディアでは「partial success(部分的成功)」や「mixed result(失敗込みの成果)」と取り上げられた。
でも日本の新聞では、「打ち上げ失敗」と書かれていた。
こんなところにも、日本が新しいテクノロジーに挑戦する時の考え方や、チャレンジする姿勢などが現れていると思いますね。

嶋瀬 宏
アウトブレイン ジャパン株式会社 社長。2001年 三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月よりアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任し、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートしている。

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