さまざまなビジネスが日夜うまれている。それはデジタル分野だけでなく、アナログなものづくりの世界でも起こっている。このコラムでは、これまでの業界の常識を変え、世の中を変えようとする取り組みを紹介する。

2018年は
「モノづくり」「モノ売り」の
マネタイズ変革元年
カテゴリー:ビジネス

これまでモノづくり企業のご相談を受け、新たなマネタイズを提案してきましたが、なかなかご理解いただけないことがあります。「マネタイズ?それってデジタル界隈の企業の話じゃないの?」「おれたちモノづくり企業には関係ないでしょ、モノ作って売るだけなんだから。」「それよりも生産体制とコストダウン」というご意見をいただくことがあります。

いえ、そうではないんです。どんなビジネスでも必要なことなんです。モノづくりやモノ売りでは、そこに注目するという業界慣行がないだけ、つまり「みんなやっていない」だけなのです。そこに風穴を開ける事例が、2018年になってから表面化し始めたのをご存知でしょうか。

そのひとつが、あのダイソンが静かに始めたサブスクリプションです。少し突っ込んでみてみましょう。おっと、ノースポンサードなコラムですので、ここで掃除機を売りつけるようなことはしません。安心して読み進めてください。笑。

このプランは簡単に言うと、あの掃除機やドライヤーを月額定額で、飽きるまで使えます。たとえばパフォーマンスプランという契約なら、掃除機なら月額1,080円(税込み)から。そして3年経てば、新機種に変えてくれます。

どうでしょう。月額1,080円から使えるなら、高嶺の花だったダイソンが、掃除機を買い替え検討中の方の選択肢に割り込んできませんか?

トータルの経済性で考えれば、ユーザーは38,880円(税込)の支払い(事務手数料3,240円除く)になります。では気になるのは、これっていったいいくらの掃除機だ?ということでしょう。追跡してみます。

Amazonなど通販ではこの掃除機、34,200円(税込)で販売されています。そう考えれば、「これって、手数料を支払って分割払いにするだけじゃないのか?」というひとがいます。

でも違うんです。サブスクリプションと分割払いは、マネタイズのあり方として根本的に違うのです。分割払いは、通常購入と同じ。ユーザーが信販会社を使って月々に分割にしただけ。この掃除機のパワーが小さい、うちに合わない、と気づいたとしてももうどうしようもありません。処分するなら、ヤフオクかメルカリに売りに出すしかありません。

他方でサブスクリプションの場合は、飽きるまで使える。そして、飽きたら返せばよいだけなのです。もし3年経ってなくても、途中で3,240円を支払えば解約できます。つまり、「私に合わないリスク」や「飽きたらいらなくなるリスク」を、ダイソンが負担してくれているのです。ちなみにアドバンスプランでは、月額2,500円で2年の設定。掃除機のグレードも上がるだけでなく、メンテナンス付きで「壊れるかもしれないリスク」の心配もありません。

このようにモノづくり企業であっても、マネタイズを変えれば長期に渡って顧客に寄り添うサービスとなります。

それだけじゃありません。もっと大切なことがあります。実はこの方式、企業にとってメリットがあります。先程の例で言うなら、ダイソンは3年間使ってもらえれば38,800円(税込)の収益になります。販売した場合はどうでしょう?Amazonが34,200円で売っているとしたら、ダイソンの収益は多く見積もっても7割(24,000円)程度が良いところではないでしょうか。いかがでしょう。ダイソンに入ってくる収益としても、サブスクリプションのほうが魅力的ではないでしょうか。

これがうまくいけば、もしかしたらダイソンは小売業では掃除機を販売せず、すべてをサブスクリプションに変えるかもしれませんね。なぜなら、ユーザーと直接つながることができ、さらに収益も大幅に改善するからです。

サブスクリプションのメリットは他にもありますが、ユーザーとメーカー両方が得するマネタイズです。しかも、お付き合いが長期に渡るので、顧客に寄り添うサービスとなります。
「いやうちはいい。大量にモノを売り切って手離れ良くしたいから」という考え方では、いくらよいモノづくりをしたとしても、企業として続かなくなります。顧客は「所有」ではなく「つながり」を求めているのですから。

そんな記事を書き終えるやいなや、こんなサブスクリプションのニュースが。来たか、いよいよ居酒屋にまで。

これについてはまた機会を改めて。

いずれにしても、マネタイズを変えれば、イノベーションのきっかけになります。そうやって旧態依然の業界で突き抜ける事例は、自動車メーカー、街のパン屋さん、出版社や学校など、すでにたくさんあります。日本が誇るモノづくり企業こそ、マネタイズ戦略についてここでじっくりと見直していただきたいものです。

どんなビジネスであれ、マネタイズ視点でまだまだイノベーションは起こせます。