さまざまなビジネスが日夜うまれている。それはデジタル分野だけでなく、アナログなものづくりの世界でも起こっている。このコラムでは、これまでの業界の常識を変え、世の中を変えようとする取り組みを紹介する。

そうか、やっぱり絶妙な
「余白」だな
〜エルメスもシェイプ・オブ・ウォーターも
カテゴリー:エンタメ、ビジネス

シェイプ・オブ・ウォーター。
作品賞を含むアカデミー4部門受賞のこの話題作を、公開日に見てまいりました。
すごく簡単にストーリーを言うならば、半魚人と中年女性との恋。
はい、叱られますね。笑。

おとぎ話のようなオープニングで心地よく始まりますが、人間としてのエロさやグロさが、所々に散りばめられています。
話題作かつアカデミーノミネート作品でもあるので、カップルが目立っていましたが(川上は基本的に映画は一人で見ます)、終わってから帰路同じエレベーターに乗り合わせても、絶句されておりました。おつきあいしたてのカップルはご注意を。笑

さて、内容については触れませんが、なんともジワジワ来る作品です。
何とも言えない余白があり、こちらに考える余地を与えますが、だからといって深く考えることはさせず、そのあたりの塩梅が絶妙なのです。

ともすれば観客の要望に答えて、名場面集やベスト盤のようなものを出しがちですが、長く愛される良い作品には必ず余白がありますね。

年齢を経るに従って、なにかを足すよりも、引き算したり、あるいはゼロベースでほんとうに必要なものだけを人生に残したいと考えるようになってきました。
とかく若いときはなんでもかんでも詰め込みたい衝動に駆られますが。でもそれは仕方ないですね。だってなにが必要なのか、自分でもわかっていないのですから。
と考えると、シンプルというのは、熟成のなせる技なのではないかと考えてしまいます。

企業で見てもそれはあきらかですね。創業期間の長い企業ほど、詰め込まないわけです。時を経てなにがたいせつなのかをわかっているから、そこに集中してメッセージを打ち込むわけです。

たとえばエルメスのような180年を超える企業のつくるものには、やはり無駄がない。プロダクトに余白がありますね。ただしその素材が語るストーリーを感じ取れます。まさに語らずして語る。

アカデミー賞、とくに作品賞の受賞作には、こうした余白をうまく使ったものがこれまで受賞してきているような気がします。惜しくもオスカーが手からすり抜けた『ラ・ラ・ランド』もそういった意味では余白があったような気がしますが、欲を言えばもうすこしジワリときてくれれば、同業者の評価を得たのかもしれません。

ぼくもサービス精神という名の怖がりが出てしまって、なかなか詰め込んでしまうタチなので、まだまだ若造です。44歳なのにアオいです。昨年の夏に出した↓なんて、余白どころの騒ぎではございません。表紙からしてやかましいです。笑。

その対極にこれ。年末になんとか出版できた『マネタイズ戦略』は、川上の心境の変化もあった時期に書き始めていますので、必要な情報を入れつつもなんとか余白を使おうと、意図的ではないにせよなにかを試行錯誤していたのは事実です。

もちろん、2冊の読者層は全く違う人達だったので、こうなったわけでもありますが、もっともっと余白をうまく使いたいものです。「そうかやっぱり余白か」と、一流のクリエイターがつくる1本の映画を見て刺激をうける、映画館の帰路でした。