さまざまなビジネスが日夜うまれている。それはデジタル分野だけでなく、アナログなものづくりの世界でも起こっている。このコラムでは、これまでの業界の常識を変え、世の中を変えようとする取り組みを紹介する。

お金が儲かって、大切なことに立ち返る~マーベルにぽっかり空いた穴
カテゴリー:エンタメ、ビジネス

 前回  からの続きです。
一度破綻したマーベル。ライセンス収入でビジネスを大転換しますが、その行方は。

ソニーに貸し出したスパイダーマンのヒットの影響もあり、マーベルは短期間に借金を返します。財務的にきれいになって、むかしの破たんなどどこ吹く風、ライセンス収入はチャリンチャリンとはいってきます。

そしてお金の心配がなくなった時、人々はそこで大切なことを思い出します。もう一度、原点に戻ろう。マーベルの場合は「キャラクターたちを使って、その世界観をこどもたちに伝えにいくぞ」と。

しかし、大問題です。スパイダーマンもX-メンも、長期の貸し出し中で使えません。困ったものの、そこはキャラがたくさんいるマーベル。残ったキャラを使って、自分たちで映画を創ろうということにしました。それがアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルク、マイティ・ソーです。スパイダーマンほど認知がないので、それぞれのキャラの価値をまずはきちんと伝えていく必要がありました。

なので、まずはそれぞれを映画化します。すると、全米に歓迎されたではないですか。日本でも、ロバート・ダウニーJr.(RDJ)がトニー・スタークを不良CEO(ちなみにテスラのイーロン・マスクがモデルになっています)として演じ、アイアンマンは大ヒットします。そのほかのキャラも、日本では思ったほどではなかったのですが、世界興収としてはヒットしました。その後、日本でもDVDなどを通じて、あとからじわじわときます。ああ、あれつながってたの?と。

そして機が熟した2012年、それらが一つの世界で大暴れする「アベンジャーズ」をリリースし、それが爆発的なヒットになります。いまだに歴代興行収入で3位。その後公開された「スターウォーズ フォースの覚醒」も追い抜けないほどでした。

そんな折、マーベルは「あー、世界観をもっと大きくしたいなー。スパイダーマンもアベンジャーズにかえってこねぇかなぁ」という叶わぬ希望をもちはじめます。

同時にソニーは、2回目の映画化である「アメイジング・スパイダーマン」が、主人公がイケメン過ぎて(川上の想像)、二作とも振るわず、「もうやーめた」と投げやりになっていました。ですが、ソニーは最近映画のヒットに恵まれず、やっぱりスパイダーマンを創りたくなります。でも3回目ってのはどうよ、とさすがに躊躇します。

ということで、今回のスパイダーマンの話になるわけです。この裏側が実際どうなっているのか、なかなか混沌としていて情報も錯綜してました。しかし、ソニー・ピクチャーズ側とマーベル(ディズニー)側、両方の関係者に聞くことで、やっとどうやってつくったのかがわかってきました。

ソニーの映画として出資は全額ソニーがやりました。そして制作はマーベルがやりました。これはマーベル・シネマティック・ユニバースとの関連もありますので、中身に関してはマーベルが全面的に作ったのです。そして、配給はソニーが担当しました。マーベルは制作を請け負ったことが今回画期的です。アイアンマン以来、自社の所有する映画しか作ってこなかったのに、異例です。でもそこまでして、スパイダーマンを登場させたかったのです。他方で、ソニーは最近ヒットに恵まれていないので、ここらで一発メガヒットをだしたい。アベンジャーズの力を借りるか、と。そうなったわけです。

安っぽくいえば、Win-Winですが、そんな単純ものではありません。スパイダーマンがホームカミングしたことに、誰でもないマーベルファンが大興奮したのですから。
ということで、そんな気持ちで「スパイダーマン:ホームカミング」をご覧いただくと、100倍楽しめます。エンドロールはデカデカと「SONY BE MOVED」と、「これ俺たちのだからね」とソニーがやたら主張してきます。これ、一番の見どころかも。笑。

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※今回の内容、ディテールはマニアの方にぜひ補強をお願いします。