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ブレない理念と組織のあり方ブレない理念と組織のあり方

川上:諸橋さんがそれだけモチベーション高く、この活動を継続している背景にあるものって、一体、なんだろうって思うんです。
なぜ、USFの活動を続けているんですか。

諸橋:私はつくづく、人が生きていく上で必要なのは人間力だと思うんですよ。
非営利企業を立ち上げて、一層強くそう思うようになりましたし、これからの日本を考えると、人間力を備えた人材がもっと育って欲しいと思います。

川上:「人間力」というと?

諸橋:たとえば、USFが支援している活動に「The First Tee(ザ・ファースト・ティ。以下TFT)」というものがあります。
これは、アメリカ・フロリダ州にあるゴルフの殿堂『ワールド・ゴルフ・ビレッジ』に本部を置く非営利団体で、ゴルフを通じて子ども達に人格形成や多様な価値観を育むチャンスを与え、ライフスキル、つまり、生きていく上で必要な能力や人生の価値を教えることを活動目的としています。
TFTが考えるライフスキルとは、礼儀やスポーツマンシップなど、健全な人間形成のために必要な素養であり、ゴルフを通して子ども達はそれらを学んでいきます。
私はこの活動を支援していて、つくづく日本人には「耐える力」が不足しているなって思うんですよ。

川上:日本人の国民性と言えば、「忍耐強い」と思い浮かびますが、そうではない?

諸橋:確かに、「じっと動かず、耐えること」は、日本人は得意です。
でも困難に立ち向かい、アグレッシブに攻めながら耐えることは、日本人は苦手だと思うんですよ。
タフなネゴシエーションに勝つだけの自信や情熱が欠けていて、いつも壁の前で足踏みしているというか…。
その壁を突破して、自ら困難に立ち向かう自信が育ったとき、本当の人間力が身につくのではって思います。

川上:このサイトのテーマも「ブレイクスルー」なんですが、それと通じるものがありそうです。
どうして日本人は自信を持ってブレイクスルーできず、壁の前で立ち止まってしまうんでしょう?

諸橋:たぶん、苦しいんですよ。
「絶対にあきらめない」っていう情熱が持てないから、問題にぶち当たった時に苦しくて、逃げたくなってしまう。
でも私は、本当にやりたいことや自分が得意とすることをやる限りは、誰でも自分の壁を突き破ることができるはずだし、あきらめずに夢を叶えることは不可能じゃないって思うんです。

川上:そのために、タフネスを身につける必要があり、それが人間力の礎となるんですね。
諸橋さんは今後、USFをどのように展開していく予定ですか。

諸橋:仕事でよくアメリカに行くのですが、いつも思うのは、アメリカは財団に対する税制が整備されているけれど、日本はまだ不足しているなっていうこと。
税金が控除されないまま、こうした活動を半永久的に継続するのは困難です。
そのため、公益法人化するのもひとつの選択肢だと思うのですが、その一方、現状の制度では活動が制限されることもあるので、それをどう克服するかが今後の課題だと感じています。

川上:公益法人化すると、たとえば活動にスピード感がなくなるとか?

諸橋:そう。営利団体は四半期や来期など、活動のタームが短いからスピード感のある活動ができるし、今、起こっている問題にも即座に対応することができる。
でも、公益財団法人は、「将来、こういう世の中にするため、今、こうした活動が必要なんです」という長期的な視点で物事を考えなければならないから、現在の社会問題に対して、スピーディに対応するのが困難になってしまうんです。
USFの活動が始まって、6年。
今、まさに岐路に立っていると感じていて、今後は海外展開なども視野に入れながら、新しい道を模索していきたいですね。

川上:諸橋さんは営利団体と非営利団体の両方を、かなりのスケール感を持って展開していますが、モチベーションや思考など、取り組む姿勢に違いはあるんですか?

諸橋:さっきも話したように、営利団体と非営利団体では活動のスピード感など異なる点がたくさんありますが、一番大きな違いは、会社経営はリーダー一人の力でできるものではなく、社員一丸となっての力が必要だけど、非営利の場合はリーダーである私の理念が曲がったら、活動自体の方向性も歪むということじゃないでしょうか。
営利団体は、利益が上がるから組織のモチベーションも上がる。
でも、非営利団体のモチベーションを支えるものはリーダーの理念や情熱であって、そこに異質なものが混ざったり、純度が薄まったりしたら、たちまち活動自体が立ち行かなくなると思うんです。

川上:だからこそ、非営利団体ではリーダーの強い信念が必要だということですよね。
これからの日本では、そうした強い信念を求める動きがますます強くなるんじゃないでしょうか。
僕は今の話を聞いて、非営利団体とファミリー企業はどこか似ている部分があるなと思いました。
今、日本で重要な役割を果たしている企業の多くがファミリー企業なのですが、サラリーマン社長だとどうしても会社の理念が社員に浸透しづらく、社員のロイヤリティが低くなりがちだけど、ファミリー企業だとオーナー社長の理念が浸透しやすく、社員のロイヤリティも高くなる。
また、ファミリー企業だと迅速に意志決定できるし、数世代にわたって長期的な視点で経営することができる。
今後、ますます社会問題が深刻化して、社会的な不安が増大していく日本では、そうしたブレない理念や創業者のDNAにすがりたくなる人がもっと増えていくでしょうね。

諸橋:確かにそうかもしれませんね。
ありがたいことに、私の娘が「将来、USFを継ぐ」と言ってくれているので、安心して任せられるようになるまで、私が頑張ろうと思っています(笑)

川上:いつもアグレッシブで新しいことにどんどん挑戦する諸橋さんですが、今年、世界最大の障害物レースと言われる「リーボック スパルタンレース」にも出場されたそうですね!

諸橋:そうなんです。今年の5月、相模原の米軍基地で日本で初めてスパルタンレースが開催されて、試しに挑戦してみたのですが、その時は「こんなに過酷なレース、絶対に無理!」って思ったんですよ。
泥だらけになるし、ものすごくハードだし…。
でもその時、最年長の参加者が77歳の女性だということを知って、「私は一体、何をやっているんだ」って思ったんです。
仕事でもプライベートでも、自分の限界は決めていないつもりだったけれど、いつのまにか自分で「無理」「できない」って決めつけていたんだなって。
それから数ヵ月間、必死にトレーニングをして、お酒も控えて(笑)、今年10月、無事に完走してきました。
スパルタンレースは距離と難易度で3種類あるのですが、残り2種類も制覇したいですね。

川上:そのパワフルさが、USFを牽引していくんでしょうね。これからの活動にも期待しています。
今日はどうもありがとうございました。

諸橋 寛子
一般財団法人UNITED SPORTS FOUNDATION代表理事
スペシャルオリンピックス日本・福島 副会長
一般財団法人脳神経疾患研究所 理事
NPO法人ザ・ファースト・ティー・オブ・ジャパン理事

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